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あとがきには書けなかった裏話


    1.作者はこんなこと考えて書いている!
2レキとスタムの性格
3.どこの国がモデルなのか?
4.隠された秘法がまだあった!?
5.続編の主人公はなんと○○○の彼女

 

一冊目の『CHANCE』を書いている途中にずっと頭にあった心配があります。
それは、教えをたくさん詰め込みすぎたかなということでした。
書いているうちに「あれも書こう、これも書こう」とどんどん盛り込んでしまったんですね。
てんこ盛りのコース料理みたいなもので、嬉しいけれどおなかいっぱいになっちゃう。

だから、次はひとつのテーマに絞って書いてみようと考えました。

「何が一番世の中に伝えたいだろう?」
と自問してみます。最初に出てきた自分の答えは、
他の人の成功に貢献して成功する、ということ。

『CHANCE』の中でもテーマとして扱っていますが、もっと具体的で、
それでいて経営者でない人も実行できる分かち合いのビジネスの姿を描こうと決めました。

☆主人公は?・・・巻き毛の明るい性格の男の子、背が低いとか父親から認められない思いなんかの心のキズもある。
☆どんなビジネス?・・・貿易をビジネスとする。
☆もっとテーマをはっきりさせるためには?・・・正反対の脇役を作ろう
☆読者を飽きさせないようにするためには?・・・エンディングの前に大きな事件を起こしてドラマチックにしよう。

こんなふうに、ひとつずつ設定を考えて、舞台となる世界を作っていきます。
全体が組み上がると、僕の中でやる気が爆発!!!
「よーし!」と一気に書き出しました。
久々に寝る間を惜しんで取り組むと、2週間で書き終わりました。

前作が半年ですから、比べるとあっという間でした。
でも集中したおかげで、とても密度の濃い文章になったと思います。




小説を書く上で最初に重要なポイントは、人物の性格です。
これが適当だと、うそ臭くて現実味のない物語になってしまいます。
・・・ということを、小説を書こうとかいう本で読んだので(笑)、気をつけていました。

レキとスタムの性格付けは、身体の構造の違いで行いました。
『星の商人』の7ページの最初の二人の描写にそれが盛り込まれています。
実は、人間は顔や体の構造からある程度の性格が決まるんですよ。

簡単に言うと、
レキの大きな瞳は、感情を表現する傾向を示しています。
スタムの小さな瞳は、感情を抑制する傾向を示しています。
このたった二つが、彼らの言動に大きな影響を与えているんです。

レキの大きな瞳は、感情表現が豊かで、よく笑い、泣き、怒り、喜び、悲しむことを示しています。
大きな瞳を持った人は、相手も感情を表現してくれると相手と溶け合った感じがします。
どちらかというと、女性的な傾向ですね。
感情を表現することで喜びと誇りを感じるわけです。
しかし、気をつけないと自分を哀れむ悲劇のヒーローヒロインになってしまいやすく、
失敗や問題の原因が“感情”にあると「辛いのだから仕方ないよね」と自分も人も許してしまう、というマイナスの傾向もあります。

一方、スタムの小さな瞳は、成人の男性に多くみられる特徴です。
ネガティブな感情ストレスによって筋肉は収縮します。同じように、黒目も大きさが変わるんです。長い間ネガティブな感情ストレスにさらされていると黒目が小さくなります。
この特徴を持った人は、なかなか感情を表に出しません。
しかし、感情を感じていないわけではなく、表現を抑圧しているのです。
自制心があるため、職場では役立つこともあります。しかし、親密なプライベートの関係では大きな問題となるものです。
他にも、自分の感情を抑圧しているので、他人も感情を抑えることが大事だと考えてしまうこと。また、あからさまに感情を表現されるのが苦手で、そうされると相手と分離感を感じることなどが問題として挙げられます。

この物語では、スタムはあまり登場しませんが、レキの感情豊かな面はたくさん出てきますね。
この本が女性に評判いいのは、実はレキが黒目が大きく、女性的な傾向を持っているからでもあるのかな?



 

きっと何の情報もなく本を買った人は、読み出してすぐにこれはどこを舞台にした物語だろうと考えるはずです。
やがて、ああこれは架空の世界なんだなと分かる。

それに、架空の世界のほうがこの物語の伝えたいことのエッセンスが伝わると思ったんですね。
現実の世界を舞台にすると生々しくなって、「これをどう使えるだろう」って考えにくくなる。
人間はあまりに具体的だと、いわゆる既成概念となってしまって、それ以外の形が思いつかなくなるものです。
正直なところ、最初は、実際の国を舞台にしようかと思ったんですけど、調べるのが面倒だった、という本音もありますけど。

地域としてイメージしたのは中東あたりです。
ぼくたち日本人はあのあたりの国のことをほとんど知らないので、都合がいいです。
時代はまだ電気がないころ。
紀元一世紀とかそんな感じかな。すみません、適当です。

世界をリアルにするために、食べ物(トリダンとかトリモッソ)を登場させました。
あたかもそういう食べ物が本当にあるみたいに書くと、現実感が出ませんか?
同じ理由で昼寝の時間もコキュルという名前にして、本当にありそうな習慣として書いてみました。

実はこういった舞台の作り方にはお手本とした小説があります。
それは『グインサーガ』という栗本薫さんが書いているシリーズです。
全100巻を予定していて、もう100巻は超えたかな?
もしご興味のある方は、読んでみてください。面白いです。



この本は、1時間あれば読み終えると思います。
「これが重要な教えだ」と分かるものは6つくらいしかありません。
しかし、かなりたくさんの秘法が隠されています。

そのひとつを明かしましょう。

主人公レキとその友人スタムは賢者から“大商人の秘法”が書かれた羊皮紙を
たったの“1ゴールド”で買います。
1ゴールドとは二人分の食事と同じ金額。
日本円で1000円くらいでしょう。

買った二人は大いに悩みます。
この買い物は安いかったのか、高かったのか?と。
羊皮紙にはたった一言「他の成功は己の成功」としか書かれていません。
羊皮紙一枚としては高いけど、大商人の秘法としては安すぎるからです。

二人の葛藤は、心理学で言う“認知的不協和”です。
この話のように、1,000円のすごい価値がある秘法なんて、矛盾していて気持ち
悪いわけです。
すると人は、その気持ち悪さを解消する方向で、つまりどうにかして
納得しようとしはじめるのです。

『星の商人』では代表的な二つの解消方法を取り上げてみました。

「これは本当に大商人の秘法なんだ!」と考えるパターンと、
「これはインチキだ!」と考えるパターンです。

実はこれ、すべて賢者の計算どおりなんですね。
わざと矛盾する状況に相手を置いて、自分で考えさせたわけです。
ありきたりのものに高い値段を設定すると、「なんだかすごい価値が隠されているんじゃないか」と考えたり、
逆に、ものすごく安い設定だと「何か欠陥があるんじゃないか」と考えたりするものです。

こういった心の仕組みを知っていると、商人レベルがアップするのですね。



星の商人には続編があって、もうほとんど書き終わっています。
えーと、正確に言うと、続編ではなく並行した裏の話という形になります。
星の商人で起きた一連の事件を裏から見た話です。

スタムの彼女であるミーナという女性が主人公です。
最初から『星の商人』の次は、女性を主人公にした物語を書こうと決めていたんですね。
スタムと出会い恋をして、パートナーシップと自立を学ぶという物語です。

この物語は星の商人とはまったく逆で徹底的に登場人物の感情や心理の変化を書いています。
ビジネスの要素が半分で、残りの半分はパートナーシップの話です。

ミーナという依存的なとても女性らしい女性が、スタムという感情を表さず、誰にも頼らない孤立的なとても男性らしい男性と出会います。
二人は惹かれあって、傷つきながら、自分を成長させていきます。

どうしてスタムは競争の世界に落ちてしまったのか?
彼には彼の人生があって、なぜあのような選択をしてしまったのかが分かります。
星の商人では彼はかわいそうなことに完全に悪役となっていますが、世の中に100%の悪人はいません。
黒いと思っていた皿の裏を見ると、まぶしいほどの純白がある、そんな感じでしょうか。

とにかくスタムがとても魅力的な人物になっています。

タイトルも僕の中では決まっていて、『月の商人』です。
とても切なくて、でも勇気を与えてくれる、そんな快心の出来なので、どうぞ発売を楽しみにしていてください。

 

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